7300億円が3兆円に!? 東京五輪の費用は誰が負担するのか

7300億円が3兆円に!? 東京五輪の費用は誰が負担するのか
マネーケア

膨らむ赤字を誰が支払うのか?

「世界一コンパクトな五輪」を目指したにもかかわらず、費用面では史上最高額の大会費用になりそうです。しかし、五輪を開催し無観客とすることを決めたことで、また別の課題を突き付けられました。五輪の赤字を誰が支払うのかです。

当初五輪には、観客を動員することになっていたので、大会予算バージョン5にはチケット売上として900億円が計上されています。組織委員会およびその他の経費の内訳には、そのチケット売上の金額が載っていますが、その金額は大会経費としてすでに使われていて、実際は返金の財源がありません。チケット返金にはチケット代金のほかに、返金に伴う事務作業にも人手と費用がかかります。900億円とするチケット返金以外にどのくらいの支出が増えるのか確定的ではありません。

●組織委員会およびその他の経費 予算V5

<収入>
IOC負担金 850億円
TOPスポンサー 560億円
国内スポンサー 3500億円
ライセンシング 140億円
チケット売上 900億円
その他 350億円
増収見込 760億円
支出調整金 150億円
収入合計 7210億円
(公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 組織委員会及びその他の経費

仮に五輪開催において赤字になったとしても、IOCは負担しない決まりになっているので、開催都市の東京都が原則として赤字を穴埋めすることになります。しかし、東京都はコロナ禍という特別事情もあることから、IOC、政府、組織委員会で協議が必要として、国にも分担を求める姿勢でいます。
もちろん一義的には東京都が負担すべきですが、東京都で対処が不可能になった場合のみ、国が支援することになります。一方で国は、無観客を決めたのは東京都なので、支払いだけを国に押し付けるのはおかしいと拒否しています。

また、東京都が組織委員会の資金不足を補填できないという事態は想定しがたいので、国は財政支援を行わない構えです。1998年の冬季オリンピック長野大会において、長野県や長野市周辺の市町村が五輪の借金を返済したのだから、東京都なら返せるでしょう、というスタンスだと受け止められます。

しかも「支出調整金」は、組織委員会の経費削減努力や増収努力によっても賄いきれない費用がある場合に東京都が負担するものです。今大会は赤字になることが見込まれるので、東京都は税金が投入されることを覚悟しなければなりません。

東京五輪の開催前に「都民ファースト」という言葉が知事の発言の中で用いられていました。「税金の負担も一番に」ということであれば、東京都民への納得のいく説明責任は逃れることができません。

五輪後の増税はあるのか?

東京五輪の決算が出るにはまだ時間がかかるでしょうが、東京五輪の赤字は約2兆円規模になるとの試算(※6)もあります。今回の東京大会は、ただ単に費用がかかって赤字になっただけではなく、コロナの影響を考慮しなくてはなりません。私見ではありますが、東京都民の負担が増えるだけでなく、全国民に負担を求める五輪後の増税もあり得ると思います。

五輪開催前には、インバウンドによる特需を見込んでいたものの、実際のところ訪日観光客に対して、日本のおいしい食べ物も観光名所もアピールできませんでした。また外国人ジャーナリストの行動も大幅に規制がかかり、日本の良さを知ってもらうチャンスがありませんでした。インフラ設備にお金がかかり、宣伝効果がゼロとなれば、コストパフォーマンスが悪い結果だけが待ち受けています。

東京五輪が赤字で、しかも今後の税収増も望めなければ、所得税や東京都の住民税が上がってもおかしくはありません。多くの事業主や事業所では、コロナのために給付金を申請してこの状況に耐えています。ただでさえ公的な資金が必要なときに、五輪の赤字填補ができるほどの財政余力はないのではと考えられます。

たとえば、1998年に行われた長野冬季オリンピックでも、長野市は694億円の借金返済に20年かかりましたし、長野県は県債を1兆6000億円発行(※7)しました。しかもコロナ禍の現状では、増税なしに地方自治体の努力だけで五輪の赤字が返済するのは難しいのではないでしょうか。

また非日常であるオリンピックやパラリンピックが終わってしまえば、現実である日常に戻らなくてはなりません。そして、五輪が終わったから「おしまい」ではなく、オリンピックレガシーの問題もあります。オリンピックレガシーとは、オリンピック開催を契機に築かれた有形、無形の遺産のことをいいます。

施設が建設されれば、開催費用とは別に維持管理費が数十年にわたって発生します。現在だけではなく、未来においての費用負担をも支払うとなると、その負担は限りなく重たいものになります。
施設のうち「海の森水上競技場」をはじめ、五輪終了後には収支が赤字になると見込まれるものがあるといわれています。東京五輪を「コロナに打ち勝った五輪」と評価するだけではなく、無駄なお金を使うことの悪影響と開催都市におけるサステナビリティ(持続可能)な五輪とは何か、何のために五輪を開催するのか、全体を検証する機会にするべきでしょう。

※6:関西大学 宮本勝浩名誉教授が試算。東京オリンピック・パラリンピックの経済効果と赤字額
※7:財団法人 長野経済研究所 長野オリンピックがもたらしたもの(長野市の財政状況)

池田 幸代

株式会社ブリエ 代表取締役 証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不...

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