後期高齢者の医療費負担 1割から2割にアップするのはどんな人?

後期高齢者の医療費負担 1割から2割にアップするのはどんな人?
マネーケア

2割負担になるのはどんな人?

そこで、今まで1割負担だった人のうち、収入が比較的高い人を対象に、2割負担に変更することになりました。開始されるは2022年10月~2023年3月の間で、今後の政令で定めることになっています。

2割負担になる人の年収は、単身世帯で200万円以上、75歳以上の人が2人以上いる複数世帯では320万円です。これは、平均的な収入で算定した年金額※5を上回る水準として計算された金額です。

1割負担だった人のうち、2割負担になる対象者は、次のフローチャート※6でわかります。
2割負担フローチャート
図:筆者作成

まず、世帯のなかで、最も課税所得が高い人の課税所得が28万円未満の場合は、1割負担のままです。
課税所得は、収入から各所得控除を差し引いた金額です。公的年金やパート収入などの合計収入から、基礎控除・社会保険料控除・公的年金等控除を差し引いて計算します。

一人暮らしで収入が公的年金だけの場合、年金収入が200万円未満の場合に対象になるケースが多くなります。ただし、所得控除はそれぞれの家族や暮らしの状況に応じて対象が変わります。
所得控除が多くなれば、課税所得は少なくなりますので、年金収入が200万円以上あっても、課税所得が28万円未満であれば、1割負担のままです。

課税所得が28万円以上の場合、世帯年収で判断します。
一人暮らしの単身世帯なら200万円以上、75歳以上の人が2人以上いる複数世帯であれば、320万円以上が対象です。
2割負担になるのは、約370万人の見込みです。

3割負担は、今までどおり、現役並みの所得(単身世帯で383万円以上、2人以上世帯で520万円以上)の世帯が対象です。後期高齢者の自己負担が、今まで1割または3割と大きな差がありましたが、今回の改正で2割負担の層ができることによって3段階になりました。

75歳以上になっても、収入が増える可能性はあります。
株式投資がうまくいったり、相続した不動産からの収入があったりすることも考えられるでしょう。そんな時に、医療費の窓口負担が、今まで1割負担だった人がいきなり3割負担になったら負担感が大きくなります。
今回の改正で、急激な変化になってしまうことが避けられれば、より安心して医療を受けられるでしょう。

※5:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(41/47)
※6:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(16/47)

2割負担になったら、医療費は倍になる?

とはいえ、1割が2割になったら窓口負担は2倍になります。
75歳以上の人は、年間で95%の人が外来受診※7しています。入院までしなくても通院する人は多く、1年間に1度も通院していないのは5%にすぎません。
そのうち5割弱の人が毎月診療を受けています。

たとえば、高血圧で定期的※8に外来治療を受けている人は、平均して1か月あたり2600円が自己負担分です。それが、2割負担になると、5200円になります。

2割負担になったら、医療費は倍?
図:筆者作成

ただし、負担増の金額があまりに大きいと、受診を控えてしまう危険性が懸念されています。そこで、2割負担になる人の外来受診の負担増加額は、最大でも月3000円に収まるように配慮されることになりました。

高血圧性疾患の場合は、月2600円の負担増で3000円以内のため、負担軽減の対象にはなりませんが、別のケースを見てみましょう。
たとえば、脳血管疾患の場合は、平均して1か月あたり4500円が自己負担分です。それが、2割負担になると、9000円になります。しかし、負担増は最大で3000円ですから、自己負担は7500円に抑えられます。

2割負担の医療費
図:筆者作成

この配慮措置は、急激な負担増加を避けるためのものであり、2割負担の施行後3年間なされる予定です。

厚生労働省が示した資料※9によれば、75歳以上の年収200万円の単身世帯では、年間支出は188万円で12万円の余裕があるとのことです。また、夫婦合計の年収320万円の世帯では、年間支出が284万円で16万円の余裕があります。
負担増にはなりますが、決して無理なものではないと試算されています。

※7:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(7/47)
※8:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(10/47)
※9:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(6/47)

現役世代の負担は軽減される?

では、75歳の後期高齢者の一定の人の自己負担が2割になって、現役世代の負担はどのくらい軽減されるのでしょうか。
全医療費のうち、患者の自己負担が増えるので、後期高齢者医療広域連合から払う医療費の総額が減りますから、後期高齢者支援金(若年者の保険料)を減らすことができます。

後期高齢者支援金
図:筆者作成

しかし、2割負担を導入しても支援金の軽減効果は2025年度で830億円です。
これは、現役世代の負担1人あたりで考えると年間800円※10、1か月あたり約67円。
現役世代にとって、負担感が軽くなる実感を持つのは難しそうですね。
このくらいのことで、医療制度の財政は改善するのでしょうか。

今後も、高齢者は増える一方で、現役世代の人口は減っていきます。
医療保険制度の存続を危ぶむ声もありますが、安心して暮らすためには、適切な医療を受けられることは欠かせません。そのため、2割負担の他にも、さまざまな方策※11が考えられています。

75歳以上になると医療機関にかかる人が増えるため、高齢化は医療費の増大の要因のひとつですが、他にも要因はあります。
たとえば、高額な医薬品が保険適用になることもそのひとつです。抗がん剤のオプジーボや白血病・悪性リンパ腫の治療薬のキムリアなど、大変高額ですが保険で使える薬なので、自己負担は抑えられますが、保険料などからの支払いが高くなり、医療財政を圧迫することにもつながります。
そのため、薬価は定期的に見直されています。

また、比較的低価格の後発医薬品=ジェネリック医薬品が推奨されています。
調剤薬局で薬剤師から、ジェネリック医薬品でよいか、聞かれた人も多いのではないでしょうか。

さらに、医療費そのものを抑えられるよう、診療報酬の見直しも検討事項です。
とくに薬局の調剤報酬※12については、今後全体として水準を下げつつ、大胆に縮減すべきとされています。

その他には、健康診断な※13どを医療費の抑制効果から評価することも考えられています。費用に見合う価値のない健康診断をなくし、効果的なものだけに絞れば、医療費が抑制されて健康増進にも役立つようになるでしょう。

持続可能な医療保険制度のためなされる政策は、2割負担の導入だけではありません。
今後もさまざまな改革がされていくと思われます。知識は常にアップデートしておくことで、どんな時にも慌てずに対処していきたいですね。

※10:厚生労働省後期高齢者の窓口負担割合の在り方について(18/47)
※11:厚生労働省社会保障について(15/41)
※12:厚生労働省社会保障について(22/41)
※13:厚生労働省社会保障について(32-33/41)

タケイ 啓子

ファイナンシャルプランナー(AFP)。 36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務...

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