日銀が「大株主」なのはどうして?金融経済にどんな影響があるのか

日銀が「大株主」なのはどうして?金融経済にどんな影響があるのか
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日本銀行が保有しているETFの残高が、2021年3月末に時価ベースで51兆円を超えたようです。ETFを保有することによって、間接的に日銀が日本株の大株主となっていると聞けば、日本の中央銀行がそんなことをして大丈夫なのかと驚いてしまいます。

経済に詳しくないという人でも、資産を増やしたいなら金融の大きな流れを知っておくことが大事です。
今回は、これまでの10年間を振り返り、日銀がETFを買い入れてきた経緯を知り、これからの金融経済にどんな影響があるのかを考えていきましょう。

参考:日本経済新聞日銀、ETF含み益最高15兆円 財務の株価影響大きく

日銀のETF買い入れの結果、日本株最大の株主に

ETFとは、取引所に上場している投資信託のことをいいます。株式のように取引所の取引時間内に相場の動きを見ながら売り買いできる商品です。
指数連動型には、株式だけではなく、債券、REIT、商品などの指数もあります。日銀が買い入れたETFは、最初のうちは資金の規模が小さいものでしたが、2020年11月には、日本の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を抜き、日本株保有額で最大の株主になりました。

日銀が大株主だといっても、ETFは運用会社を通じて買われているので、株主名簿には運用会社が登録され、直接日銀が株主として名前が出ることはありません。
しかし、継続的にしかも大規模に日銀がETFを買うことで、企業の業績が悪い場合でも株価が下がることが少ないなどの弊害が見られるようになりました。
また、発行済み株式数の20%以上を日銀が持っている企業まで登場しています。中央銀行が株式市場の最大の株主をいうのは、はやり異常な状態です。

日銀がなぜETFを買っているのか?

それでは日銀はなぜETFを買うことになったのでしょうか。日銀のこの10年あまりの金融政策を振り返ってみましょう。

日銀がETFを買っているのは、買い入れを通して市場にお金を供給することで、物価の安定や金融システムの安定を図ることが目的です。

当初ETFの買い入れは、2010年10月に包括的緩和策の一環として、白川総裁の時に決定されました。
当時は「デフレからの脱却」を目標としており、従来の金融緩和では不十分という認識から、日銀がリスク資産を購入するという異例の措置として2010年12月に実施されました。
そこでは買い入れ対象資産を従来の国債ほか、ETF、REIT(不動産投資信託)を新たに加えました。最初の買い付け額は4500億円と、現在にくらべれば規模の小さいものでした。

それから黒田総裁に変わると、ETFの買い入れのペースは一気に倍増し、2013年4月には「異次元緩和策」として、年間1兆円ペースまでETFの買い入れ額が引き上げられました。
この頃には「物価目標2%達成」が掲げられ、株価を押し上げることで物価を上昇させることを目的としました。
その後2014年10月にはJPX日経400型ETFの買い入れが始まり、年間3兆円規模の買い入れとなり、2016年7月には年間6兆円規模まで膨らみました。

さらには、2020年3月のコロナショック時に世界同時株安の対応策として、買い入れ枠を12兆円まで拡大させました。同年3月17日には1216億円の購入、続いて3月19日には2016億円の購入と、この年の3月の日銀のETF買い入れ額は1兆5484億円に達しています。
このようにコロナショック時に買い入れ枠を増やしたため、経済回復の期待感から株価が上昇したことで、2021年3月末には含み益が15兆4444億円まで膨らみました。

時価ベースでのETFの総額は、50兆円を超える結果となっています。

参考:DIAMOND onlineコロナ禍で増える、日銀が「大株主」の企業ランキング

日銀が企業の「大株主」だとどうなるのか?

日銀がETFを買い入れることによって、日本の株式市場の株価が下支えされました。そのおかげで金融システムの安定につながっています。
もし当時、日銀のETFの買い入れがなければ、株価がさらに下がり、金融機関の財務体質の悪化から貸し渋りにつながる恐れがありました。

しかしその反面、株価指数に連動したETFを大規模に買い入れることで、ETFの構成銘柄であれば業績の良し悪しに関わらず関係なく買われる状況が生み出されました。個別銘柄の分析をして買う意味が薄くなり、日銀がETFを買うことによって株価全体が押し上げられた格好になっています。
たとえば、業績が悪かったり、不祥事があったりする会社でも指数に連動する構成銘柄であれば、買われることになります。

これは、企業の価値を評価して取引を行う市場の機能にゆがみをもたらしたともいえ、本来の実勢価格ではない実態を伴わない株価になってしまいます。
株価指数に着目して、株式市場で売られた分を日銀が買い戻すことが繰り返し行われることで、実体経済と金融経済の乖離が起きているのです。

このまま日銀が大株主の状態が続くとどうなるのでしょうか。

株価が順調に推移しているうちは良いのですが、何らかの要因で株価が大きく下落する場合や景気後退の局面では含み損が発生します。
ETFは投資信託なので、買い付け時の手数料だけではなく、ETFを持ち続けている間は、信託報酬という手数料がかかります。売るタイミングがなく塩漬け状態になれば、運用資金の中から手数料が差し引かれるので、最終的には国民の負担となってしまいます。
一方で、運用会社にとっては儲けられるということなので日銀の買い入れは好都合でしかありませんね。

さらに2021年3月時点で日銀が発行株式数の10%台のシェアを持つ東証1部上場の企業は71社、20%台のシェアを持つ企業にいたっては4社あります。試算によれば22年3月末までには、その数が増える予想になっています。
日銀はあくまで保有しているのはETFであり、株式は間接保有となるので、株主総会で議決権を行使するのは運用会社です。その運用会社が適切に議決権を行使しているかは疑問で、もし適切さを欠けばチェック機能が果たせなくなり、企業経営の監視が弱まることにもつながります。

参考:DIAMOND online「日銀が大株主」の企業ランキング!3位TDK、2位ユニクロ、1位は?21年3月末のETF保有大幅増

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池田 幸代

株式会社ブリエ 代表取締役 証券会社に勤務後、結婚。長年の土地問題を解決したいという思いから、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。不...

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