2021年度は0.1%の引き下げ! 年金支給額はどう決まる?

2021年度は0.1%の引き下げ! 年金支給額はどう決まる?
マネーケア

年金の支給額は物価や賃金に連動させるのが原則

本来の改定ルールは、年金財政の健全化中か否かにかかわらず常に適用されることになっています。これにより、年々変わる経済状況の変化に対応して年金額の実質的な価値を維持する、という年金額改定の基本的な役割を果たします。

この仕組みは、物価(もしくは賃金)が上がれば年金額も上がり、物価(もしくは賃金)が下がれば年金額も下がる、という仕組みです。

例えば、世の中の物価が上がっているのに年金支給額が変わらなかったら、買えるものが減り、実質的には年金の価値も目減りしてしまいますよね。それを防ぐために、毎年物価の変動率で調整をかけるのです。
物価に連動するか、賃金に連動するかは、基本的には年金受給者の年齢によって以下のようにきまります。(※連動することをスライドと呼びます)

年金支給額 物価と賃金
表:筆者作成

まず、年金額の改定においては、3年度前の指標が用いられることから、その年度中に到達する年齢が67歳以下の年金受給者を「新規裁定者」、68歳以上の年金受給権者を「既裁定者」として取り扱います。
一度、既裁定者となれば、その後は基本的には、物価に連動します。
一方、新規裁定者は直近の賃金の動向を反映させるため、賃金に連動するルールになっています。

黄色い点線で囲んだ部分については注意が必要で、新規裁定者は物価に関係なく常に賃金に連動する一方、既裁定者の場合は基本的には物価に連動するとされているものの、物価>賃金(賃金指数が物価指数を下回る状態)の場合には賃金に連動するとされています。

このように複雑になっているのは、なぜでしょうか。
そもそも、年金の改定ルールは賃金>物価(賃金指数が物価指数を上回る状態)を想定して作られているものの、物価>賃金(賃金指数が物価指数を下回る状態)の場合には現役世代の賃金が下がっていますので、相対的に年金保険料の負担が重くなります。
そのようなときには年金世代の給付も同じ分下げて痛み分けをしましょうね、という理由からです。

年金制度は現役世代の保険料で年金を賄う世代間の仕送りであることを考えても、合理的な仕組みであると言えます。

2020年度までは、例外的なルールが適用されてきた

しかしながら、2020年度までは、年金生活者への配慮から上記の基本のルール(黄色い点線で囲んだ部分)が適用されない例外ルールが設けられました。それが次の2つです。

ケース1 物価変動率がプラスで賃金変動率がマイナスの場合:物価>0>賃金

ケース1 物価変動率がプラスで賃金変動率がマイナスの場合:物価>0>賃金
図:筆者作成

ケース2 物価変動率と賃金変動率が両方ともマイナスの場合:0>物価>賃金

ケース2 物価変動率と賃金変動率が両方ともマイナスの場合:0>物価>賃金
図:筆者作成
この例外ルールは2004年の改正で規定されたものです。
それ以前(1990年代まで)は賃金水準の伸びが物価水準の伸びを上回ることが一般的とされていたのですが、2000年代に入ると賃金水準の伸びが物価水準の伸びを下回る場合が長引く(いわゆるデフレ)状態が続いてきました。

そのような経済状況の中でそのまま基本ルールを適用すると、既に引退している年金受給者の年金額がどんどん切り下げられてしまい、生活が苦しくなってしまいますので、それを防ぐために、上記のような例外ルールを設けました。

ただし、デフレが長期化し、物価>賃金(賃金指数が物価指数を下回る状態)という状況が今後も続くとなると、年金財政のさらなる悪化という副作用が生じはじめます。
そこで、この2つの例外ルールは見直され、2021年度からは適用されなくなり、基本ルールが徹底されることになりました。

この影響で今年度の年金支給額がどうなったかについては、後述します。

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KIWI

ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士 長年、金融機関に在籍していた経験を活かし、個人のキャリアプラン、ライフプランありきのお金の相談を得意とする。 プ...

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