「手取りの給与」はどう決まるのか

「手取りの給与」はどう決まるのか
マネーケア

社会保険料は4〜6月の給与で決まる

国や自治体が運営する社会保険には、大きく分けて健康保険・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険の5つがあります。会社員は労災保険を除く4つの保険の保険料を会社とともに負担します。なお、労災保険の保険料は全額会社が負担します。

給与から差し引かれる社会保険料は、給与の額によって変わります。社会保険料を算出する基準となる給与を「標準報酬月額」といいます。

標準報酬月額は毎年4月〜6月の給与の平均額(報酬月額)を等級表に当てはめて算出します。給与が少々違っていても、同じ等級に当てはまる人は標準報酬月額も同じになります。標準報酬月額は9月から翌年8月まで使われ、1年ごとに見直されます。

よく「4月〜6月は残業しないほうがいい」といわれるのは、4月〜6月の給与が増えることで標準報酬月額の等級が上がり、社会保険料が増える可能性があるためです。もっとも、標準報酬月額の等級が上がると、年金が増えたり、傷病手当金や出産手当金などが増えたりするメリットもあるので、必ずしも悪いことばかりではありません。

厚生年金保険料はどう決まる?

厚生年金保険料の標準報酬月額を等級表から確認してみましょう。

【厚生年金保険料の等級表】

日本年金機構「厚生年金保険料額表(令和4年度版)」より

厚生年金の等級は32等級に分かれています。たとえば、報酬月額が25万円の場合、標準報酬月額は17等級の26万円です。厚生年金の保険料率は18.3%で、会社と9.15%ずつ折半して支払います。したがって、厚生年金保険料は2万3790円となります。

健康保険料・介護保険料はどう決まる?

健康保険料・介護保険料も厚生年金保険料と同様に算出しますが、保険料率は都道府県ごとに異なります。

【健康保険料・介護保険料の等級表】※東京都の場合

協会けんぽのウェブサイトより

健康保険・介護保険の等級は50等級に分かれています。たとえば、東京都で協会けんぽに加入しており、報酬月額が25万円の場合、標準報酬月額は20等級の26万円です。東京都の場合、健康保険の保険料率は9.81%。会社と折半したあとの健康保険料は1万2753円とわかります。また、40歳以上の場合は介護保険料も支払います。健康保険+介護保険の保険料率は11.45%。折半後の保険料は1万4885円です。

雇用保険料はどう決まる?

雇用保険料は給与の総支給額に一定の保険料率をかけて算出します。

雇用保険料も従業員と会社で負担しており、会社の負担の方が大きくなっています。また、2022年10月に雇用保険料率が改定(値上がり)しています。

2022年10月からの雇用保険料の料率は

・一般の事業:従業員0.5%・会社0.85%
・農林水産・清酒製造の事業:従業員0.6%、会社0.95%
・建設の事業:従業員0.6%、会社1.05%

となっています。

たとえば、一般の事業を行う会社に勤めている従業員(給与の総支給額30万円)の場合、従業員が負担する雇用保険料は30万円×0.5%=1,500円、会社が負担する雇用保険料は30万円×0.85%=2,550円となります。

所得税・住民税はどう決まる?

会社員の所得税の額は、1年間の給与収入から、

・フリーランス・個人事業主の経費にあたる「給与所得控除」
・個人の事情を税額に反映させる「所得控除」

を引いた課税所得に、5〜45%の税率をかけて算出します。所得税の税率は累進課税といって、課税所得が多いほど、税率が段階的に高くなります。所得税額からは、さらに「税額控除」で税額を直接減らすことができます。

【所得税額が決まるまで】

(株)Money&You作成

給与所得控除の金額は収入金額によって自動的に決まります。また、課税所得から所得税を計算するときは、速算表を利用すると便利です。

【給与所得控除の金額】

(株)Money&You作成

【所得税の税額速算表】

(株)Money&You作成

毎月の給与から支払っている所得税は、会社が前年の所得などをもとに算出した概算の金額です。正確な所得税額は、所得控除や税額控除がいくらかがわからなければ、計算できないからです。そこで会社は毎年末に、所得控除や税額控除の情報を集めたうえで正しい所得税額を計算しなおしています。これを年末調整といいます。よく「12月の給与がいつもより多かった」という話を聞くのは、年末調整によって納めすぎになっていた税金が還付されているからです。

個人の事情を税額に反映させる所得控除には、生命保険料を支払ったときの「生命保険料控除」、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)を利用したときの「小規模企業共済等掛金控除」、所定の医療費を払った場合の「医療費控除」など、全部で15種類あります。所得控除を増やせれば課税所得が減るので、所得税額が減ります。また、住宅ローン控除などの税額控除が利用できれば税額を直接減らすことができます。

どちらも、手取りが増えることにつながりますので、所得控除や税額控除をきちんと申請しているか、申請漏れがないかを必ず確認しましょう。仮に年末調整で手続きを忘れたとしても、確定申告をすれば納めすぎた税金が戻ってきます。

また、住民税には所得によって金額が変わる所得割と、同じ自治体に住む人が同じ金額を支払う均等割があります。原則として、所得割は課税所得の10%、均等割は5,000円です。毎年6月ごろ、会社から手渡される住民税課税決定通知書を見ると、住民税の金額がわかります。住民税の年度は6月始まりで、翌年5月までとなっています。

なお、所得税はその年の所得から計算されるのに対し、住民税は「前年の所得」から計算されます。そのため、前年の所得がない社会人1年目の方はかかりません。

手取りの給与がどう決まるのか紹介してきました。手取りの給与は、総支給額から総控除額を引いた、口座に振り込まれるお金です。これまで給与明細をよく見てこなかった、あるいはすぐ捨てていたという方も、ぜひ給与明細をみて、手取りの給与がどう決まっているのかをチェックしてみましょう。そして、疑問点が出てきた場合は会社に確認しましょう。

頼藤 太希

(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント 中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。...

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